ときどき、ふとしたはずみでイタい過去を思い出してしまうことがある。若く、蒼かった頃のメモリーがフラッシュバックして、のたうちまわってしまうことがある。きのうも職場でパソコンをいじっている最中、突然、何の脈絡もなく、そんな状態がおとづれた。

一瞬にして「ああぁ…いっそのこと誰かオレを殺してくれ!」みたいな気持ちに陥った。苦痛でものすごい顔をしてしまった。脳の思考のスミのスミまで、イタい記憶に支配されてしまった。たぶんぼくはその時きっと、かすかにあえぎ声さえ漏らしていたかもしれない。

まあ、その時パソコンで開いていたのが自分の業績に関するデータなので、ぼくの仕事ぶりをよく知る人であれば、業績を見てうちひしがれてるんだと解釈してくれるはずだ。現にぼくは今、これを書きながら打ちのめされつつある。

しかし、それを知らない人からすればこの、「パソコンに向かって鬼の形相をとる男」というビジュアルは相当なインパクトであると思う。ぼくの職場での立場をさらに危ういものにしかねない異様さである。

ここはまず一刻も早く平静さを取り戻すべき、深刻な事態である。そう考えたぼくは、必死でうなだれた頭を上げた。平静な佇まいを取り戻すことに精神を集中させて頭を上げた。上げたら、向かいの棚に古いフラワーロックがあるのが目に飛び込んできた。

なぜ今時そんなモノが置いてあったのかわからない。なぜ?どうして? が、そいつがぼくの集中を削ぐのに十分なインパクトを持っていたのは確かだ。

フラワーロックは、ぼくの先程の喘ぎ声に反応して、カタカタと激しく揺れていた。