昔、知人の付き添いで確定申告の相談窓口へ行った時のこと。隣でやはり相談をしている老人の方から聞こえてきた一言に、もの凄い衝撃を受けたことがある。曰く、

「わたくしは、バイブ業をしておりまして…」

驚きの余り、思わずマジマジと彼の顔を眺めてしまった。バイブ業!?
見た感じは、落ち着いた佇まいの品の良い老紳士だ。その彼が、柔らかな物腰で自らをバイブ業者と称しているのである。って何だ、それは。

失礼ながらもよくよく耳を傾けてみれば、どうやら彼はモノ書きを生業にしてらっしゃる方らしいということが判明。なんてことはない。<売文業>の聞き間違いだったのだ。いや、恥ずかしいやら情けないやら。

考えてみれば当たり前の話である。そんなモノに市場があるなんて聞いたこともないし、仮に作り手の意だとしたら、それはバイブ業ではなく製造業だ。

多分こういうのはロールシャッハテストと同じで、聞き取り不明瞭なコトバというのは、自分の無意識を如実に反映する形でイメージ・把握されるものなんだろう。いやはや、永遠の男子中学生の名に恥じないオチだったわけである。

で、その知人にもさんざん馬鹿にされたわけなんだけど、「その方、打ち首・獄門の刑に処す。by奉行」なんてダジャレを放っていた彼よりは、幾らかマシなような気がする。(まあぼくも、「打ち首」には「チクビ」という韻が含まれているなあ、なんてコトをひっそり考えてたのですが)
= = =

それにしても。
老人にはよくあることとはいえ、あの売文家。リューマチが酷いのか、手の震えが尋常じゃなかった。志村けんの病人コントみたいに、やたらダイナミックに震えてた。

あの手先を思い出す度にぼくは、バイブ業というのもあながち間違いでなかったのでは、という気がしてくるのである。