先週、入院していた間のできごと。

ある朝ぼくは、不安な夢からふと目覚めてみると、ベッドの上を巨大なゴキブリが這い回っているのに気づいた。硬い甲羅の背中をテラテラと光らせ、丸く大きく膨らんだ褐色の腹部を緩慢なリズムでヒクつかせながら、しかもそれは2匹が「つがい」になって枕元をウロついているではないか。

ぼくは寝ぼけ半分で気の抜けた大声をあげ、そのままベッドから転げ落ちてしまった。巻き込まれたマグカップが、床に叩きつけられて大きな音で割れた。

廊下からは「どうしました?」と叫んで駆けてくる看護婦の小走りの足音…

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これだけ聞くと何人かの読者の方は、ぼくがゴキブリが恐くて大騒ぎをしてたと考えるかもしれない。その時駆けつけた看護婦さんも、すっかり事態を誤解したようだった。すごい冷たい目をされた。多分、ぼくのコトを相当な小心者だと思ったことだろう。

ここで断っておくと、ぼくは特に「生き物嫌い」だというわけではない。むしろ、相当な生き物好きだと言って良いと思う。動物を愛する心にかけては、かの畑正憲氏にも決して引けをとらないと自負している。特に米沢牛稚内産のカニなどはもう、食べてしまいたいほどに大好きである。この時点ですでに、トラに指を食べられちゃったムツゴロウ氏よりもぼくの方が能動的・積極的に動物に接していると言えるので、ぼくの勝ちではないだろうか。(ただし、トラに2回も食べられてる松島トモ子氏にはかないそうもない)

あるいは。一見グロテスクな生き物…ムカデやミミズなどもぼくは分け隔てなく好きだ。どれぐらい好きかというと、目に入れても痛くないほど好きである。正直に言えばこの主張には、「ぼく以外の人の目である場合」という限定条件が付くんだけど、「ぼく」と「ぼく以外の地球人口」の比率を考えてみれば、それは非常に些細な問題だと言えよう。

ぼくは単に口先だけで生き物好きを公言しているわけではない。実際にいろいろな生き物と寝食を共にしているし、外出するときでさえ常に、顔ダニや大腸菌などを同伴しているほどなのである。そんなぼくが、ゴキブリごときでいちいち悲鳴を上げるわけがないではないか。

というわけで、あの時ぼくは悲鳴ではなく歓声を上げたのに過ぎないのである。思わぬ場所で生き物に出会えた嬉しさのあまりつい声を上げただけ。ベッドから転げ落ちたのも、ついはしゃぎ過ぎてしまっただけなのだ。

なのにすっかり小心者だと思われているのが、ぼくとしては非常に心外なのであります。

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その看護婦さんが鳩心を見ているとも思えないんだけど、自分との折り合いをつけるという意味でも、今日の日記は釈明文とさせていただこうと思って書きました。みなさんにもぼくの本来のキャラクター、雄々しい人柄が伝われば幸いです。

小心者の汚名を返上するためには、こうやってチマチマと言い訳を重ねるのもやむを得ないのであります。

(ところで、「看護婦さんにこのサイトのコトを話さなかったの?」という疑問もあろうかとは思いますが、そんな恥ずかしいこと!…考えただけで寿命が縮みます)