昔、仕事でよく老人ホームに出入りしていた。

ある時、お茶をいただきながらの雑談中、「来週誕生日を迎える入所者のお爺さんにプレゼントをあげようと思うんだけど、何にしたら喜ぶかなあ?」と相談されたことがある。

ぼくは、そのとき手にしていた湯飲みから閃いて、「歴代の入居者が記されている湯のみ」というアイディアを提案してみた。

寿司屋で出る「魚の名前がビッシリ記された湯飲み」とか、国技館で売っている「歴代横綱の似顔絵がビッシリと書かれた湯飲み」、あるいは「歴代総理大臣の湯飲み」。そういうイメージ。

ぼくとしてはかなり真面目に言ったつもりだ。

ところが、先方にはかなり真面目に「それは酷いよ中村さん」と返されてしまった。眉間に皺の寄る感じ。重い沈黙。スチーム暖房のシンシン鳴る音を今も忘れない……

以上。ぼくが何かプレゼントを贈ろうとしてもロクなことにならない、というエピソードでした。

これを、近く5回目の誕生日を迎える親戚の子供に捧げたい。