回転寿司屋に行くと、カウンター裏に必ず「テンション調整レバー」というのがあるのに気づく。ベルトコンベア付近についているアレだ。一度、あれを操作してみたいと思っている。

レバーを下げる。途端に照明がぐんと暗くなる。職人が何万匹もの魚を殺めてきた半生を涙まじりに独白し、厨房からもすすり泣く声が漏れる。店の隅には、アイスの棒に《きんぎょのおはか》と書いた墓標を立てる子供たちの小さな背中。

レバーを上げる。カクテルライトがはじけ、店内を嬌声が包む。回る寿司に電飾が施され、エレクトリカルパレードのテーマが ON AIRサヨリ筋子などの注文に対し、吉永小百合峰不二子のモノマネでボケ倒す親方。と、そこへ店員がすかさず巨大しゃもじでつっこむ。揺れる客席。万雷の拍手。

事務室にいる店長はきっと、ただならぬ店の雰囲気を知って激昂することだろう。そして青塗りの山羊がスタンバってるのに気づいた時に、とうとう彼の中で何かが音を立ててキレるのだ。
「貴様!何を勝手にやっとるか!」
嬉々としてレバーを操作するぼくを見つけ、修羅の形相で事務室を飛び出す店長。

しかし店内に一歩立ち入った瞬間、さっそくバナナの皮を踏んだりはじめる。