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「痛み分けに持ち込む」という処世術について考えている。
なにかヘマをやらかして人様に迷惑をかけてしまったときなどに、自分も同時に被害を被っておくと、厳しい糾弾を逃れられることがある。
例えば誰かと食事をしていて、汁ハネしたものが相手の衣服に飛び散ってしまったとしよう。
ここは通常、「ああっ、このシャツ高かったんだよ!」などと不快感を露わにされる場面である。しかし、相手が憤ってぼくを睨んだとき、ぼくの服にも汁がベッタリと付着していたらどうだ。相手の怒りもかなり萎えるんではないだろうか。
「同じ苦痛を共有しているという、ある種の仲間意識」と「既に十分打ちのめされている人を改めて責め立てることに対する後ろめたさ」が、人の怒りを鈍らせるのである。
さらにここで、それこそ全身が汁にまみれていたりすれば、相手の気勢はさらに削がれることだろう。併せてヤケドなども負ってみれば効果はさらに上がるに違いない。恐らく、従来なら弁償金(クリーニング代)として3000円取られるところも1000円程度にまでディスカウントできるはずだ。そうしたらもうシメたもの。浮いた2000円をやけどの治療費にまわせば良いわけである。さあ、レッツ大やけど。
いかがだろう。「痛み分けに持ち込む」という処世術が、実に使い勝手のいい立ち振る舞いなのがお分かりいただけただろうか。
もうひとつ実例を示そう。
先週末の夜中2時頃、たいした用事もなくヒマつぶしに知人宅へ電話をかけた。ずいぶん長い間コールして、ようやく相手が電話に出た。と思ったら、彼はものすごい寝ボケ声ではないか。「…も゛じも゛じ……」
こういう時って、なんだか妙にアセる。
「あれ?もう寝てた?」
「あ゛〜 あした…しごとで あさ はやいから…もう、ねてたけど……」
なんだかとても申し訳ない気分になってしまった。いくら彼が夜型の人間とはいえ、やはり夜中の2時に電話をかけるのが非常識なのだ。しかも彼は朦朧としててなんだかツラそう。絞るようにして「あ゛〜」だの「う゛〜」だの言っている。このままでは後々、叱らること間違いなさそうだ。
窮したぼくは、咄嗟に「ああ…そう…… じ、実はぼくも寝てたんだ。では。」と言って慌てて電話を切ったのであった。
たぶん痛み分けが効いたのでしょう。その後、まったく音信ありません。